日記、サイト運営に関する諸々及びPBWゲームへの呟きをつれづれなるままに。
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スパルタ式教育法
立て続けに銃声が響く。
――自分の拳銃ががなり立てる音だけではない。
彼の銃声の方が多い。そして、速い。
「くそっ……やっぱり、強い……!」
廃ビルの建ち並ぶ、今はもう廃墟と化したビジネス街を、頭を低くしながら駆け抜け、物音と気配のする方に向かって引鉄を引き続ける。
同時に、恐ろしい正確さで飛来する弾丸を、勘以外のなにものでもない感覚で必死にかわし、物影へと飛び込んで避ける。
コンクリートに弾丸がめり込む音、弾丸がもうすっかりガラスの砕けてしまった窓の枠をかすっていく音、わずかに残っていたガラス片が断末魔を思わせる甲高さで砕けて落下していく音が響き渡る。
背筋がすうっと冷たくなった。
一歩間違えば確実に死んでいる。
「ぜ、絶対殺す気だ……!」
カーネは頭上わずか数センチの空気を抉り取ってゆく弾丸に肝を冷やしながら、わずかな時間で弾倉を取替えた。その弾倉ももう残り少ない。
そして、一ヶ所にじっとしているだけ危険が増す――特に、彼との戦いに置いては――ので、すぐに物陰から飛び出すと、別のビルの陰に隠れて気配をうかがう。
――彼の気配は恐ろしく希薄だ。
十五歳のころからこの稼業に足を踏み入れ、今ではファミリーのヒットマンとして働いているらしい彼は、戦うこと殺すことが呼吸をするのと同じくらい自然な動作なのだ。
だから、こういう戦いの場において、彼の気配は自然なものとして掻き消され、なかなかこちらに伝わって来ない。
(そりゃ、生き様が違うって言われたら、それまでだけど……)
カーネがファミリーに入ったのはつい先日だ。
期間で言えば一年も経っていない。
早くに二親をなくし、唯一の肉親は祖母だけで、決してお上品な生き方をしてきたわけではないけれど、ファミリーに入る前、二十二歳になるまでは、人を殺すどころか殴ったことすらなかった。
祖母の経営するリストランテでクオーコ(料理人)として働いていたカーネにとって、ナイフとは食材を切るためのものであって、人に斬りつけるものでも、突き刺すものでもなかったのだ。
人間の気配を読むこと、殺気に敏感になることなど、戦うために必要なたくさんの作法は、ファミリーに入って初めてやり方を知った。
正確には、教えてもらったのだ。
(……人間、変われば変わるよな)
苦笑交じりに思いつつ、カーネは銃のグリップを握りなおす。
まだこの道に踏み込んで一年も経っていないのに、妙に馴染んでしまっているのは、この数ヶ月があまりにも濃かったのか、それとも、カーネ自身に素質があったと言うことなのか。
不意に、銃声が途切れた。
同時に彼の気配も完全に消える。
「!?」
狼狽し、弾け飛びそうなほど激しく脈を打つ心臓をなだめながら、その心音が彼に聞こえてしまうのではないかと肝を冷やしながら彼を探――
「まだまだダな」
声は、唐突に後ろから。
「ッ!」
悲鳴を飲み込み、咄嗟に振り返り、銃を、
「遅イ」
……構え直す暇すらもなく、気づけば顔面に彼の拳が埋まっていた。
めりっ、というか、ごりっ、というか、そんな嫌な感触があって、
「!!」
カーネはなすすべもなく吹き飛ばされる。
鼻血が出なかったのと、顔の骨が折れなかったのを褒めて欲しいくらいだ。
しかし当然、痛いものは痛くて、
「チェックメイト……というのだったカ?」
呻きながら身を起こそうとしたら、後頭部に硬い銃口が押し当てられ、
「あー……また駄目だったか……」
カーネはそのまま、顔面から地面に轟沈した。
「こレで……俺ノ八十七勝零敗だナ?」
淡々とした声が頭上から降ってくる。
カーネは深々と溜め息をついて顔を上げた。
金色の髪の、背の高い、鋭い眼の青年がそこには立っている。
野生の獣を思わせる、強靭さとしなやかさを有した青年だ。
カーネがあちこち傷だらけなのに、彼はかすり傷ひとつ負っていない。中華を思わせる独特の衣装や、友人だかファミリーの一員からもらったという毛皮の肩当てにも、わずかな乱れすらない。
「マグナ兄貴は速すぎるし強すぎるよ……手加減されてるって判るのに、全然追いつけない」
いてて、と呻きながら立ち上がり、ジーンズの尻をはたいて埃を落とす。
転がった拳銃を拾い上げ、懐に戻す。
「まぁでも、だからこそ教わってるわけだしな、うん」
自己完結していると、彼ことマグナが、先刻カーネが投擲したナイフを数本、渡してくれた。
「大事ナものダロう」
「あ、ありがと」
カーネはちょっと笑ってナイフを受け取る。
マグナの言葉に片言が混じるのは、彼がこの国の生まれではないからだときいたことがあるが、ひな鳥が初めて見たものを親と思う刷り込みの如くにマグナに全幅の信頼を置いている――とにかく構って欲しくてまとわりつくので、たまに鬱陶しがられていると思う――カーネには、マグナがどこの国の何という人種だろうと関係がなかった。
ひょんなことからボスに助けられ、彼に惚れ込んでファミリーに入ったという経緯の、戦闘に関しては屁の役にも立たなかったカーネを、一年弱でここまで鍛えてくれたのがマグナだ。
カーネがファミリーに入った際、その場にいたから、というそれだけの理由で、ボスからカーネの指導を丸投げされたマグナだが、なんやかや言いつつ、ボスからの命令だから、という理由であったとしても、忙しくないときは、カーネの鍛錬や訓練に付き合ってくれるし、相談にも乗ってくれる。
彼がファミリーに入るきっかけとなった事件で祖母を亡くし、天涯孤独となった今のカーネにとって、マグナの存在はとても大きなものなのだ。
――もちろん、自分と彼の間に、温度差があることも理解はしているけれど。
「マグナ兄貴は、しばらく向こうで仕事だっけ?」
連れだってアジトへと戻りながら問うと、マグナはちいさく頷いた。
精緻に編み込まれた美しい金髪がわずかに揺れる。
「大きナ抗争があル。……しばらくハ働き詰めダロう」
「そっか。えーと……気をつけて。って、俺が言うようなことじゃないのかもしれないけど」
彼のような強い男に、自分のような下っ端が何を言っても無意味な気がしてそう付け加えると、マグナはしばし沈黙したあと、カーネの肩を軽く叩いた。
「……あア」
心配無用、のニュアンスを感じ取り、カーネは満面の笑みで頷く。
そして、彼が帰ってくるまでに、もう少し強くなっておこう、と思うのだ。
強い兄貴が大好きだから、早く追いついて、その背中を守れるようになりたい。
難しいことだと判っているけれど、なくすものも帰る場所もないカーネにとって、それは、今一番大切な目標だった。
カーネは頭上わずか数センチの空気を抉り取ってゆく弾丸に肝を冷やしながら、わずかな時間で弾倉を取替えた。その弾倉ももう残り少ない。
そして、一ヶ所にじっとしているだけ危険が増す――特に、彼との戦いに置いては――ので、すぐに物陰から飛び出すと、別のビルの陰に隠れて気配をうかがう。
――彼の気配は恐ろしく希薄だ。
十五歳のころからこの稼業に足を踏み入れ、今ではファミリーのヒットマンとして働いているらしい彼は、戦うこと殺すことが呼吸をするのと同じくらい自然な動作なのだ。
だから、こういう戦いの場において、彼の気配は自然なものとして掻き消され、なかなかこちらに伝わって来ない。
(そりゃ、生き様が違うって言われたら、それまでだけど……)
カーネがファミリーに入ったのはつい先日だ。
期間で言えば一年も経っていない。
早くに二親をなくし、唯一の肉親は祖母だけで、決してお上品な生き方をしてきたわけではないけれど、ファミリーに入る前、二十二歳になるまでは、人を殺すどころか殴ったことすらなかった。
祖母の経営するリストランテでクオーコ(料理人)として働いていたカーネにとって、ナイフとは食材を切るためのものであって、人に斬りつけるものでも、突き刺すものでもなかったのだ。
人間の気配を読むこと、殺気に敏感になることなど、戦うために必要なたくさんの作法は、ファミリーに入って初めてやり方を知った。
正確には、教えてもらったのだ。
(……人間、変われば変わるよな)
苦笑交じりに思いつつ、カーネは銃のグリップを握りなおす。
まだこの道に踏み込んで一年も経っていないのに、妙に馴染んでしまっているのは、この数ヶ月があまりにも濃かったのか、それとも、カーネ自身に素質があったと言うことなのか。
不意に、銃声が途切れた。
同時に彼の気配も完全に消える。
「!?」
狼狽し、弾け飛びそうなほど激しく脈を打つ心臓をなだめながら、その心音が彼に聞こえてしまうのではないかと肝を冷やしながら彼を探――
「まだまだダな」
声は、唐突に後ろから。
「ッ!」
悲鳴を飲み込み、咄嗟に振り返り、銃を、
「遅イ」
……構え直す暇すらもなく、気づけば顔面に彼の拳が埋まっていた。
めりっ、というか、ごりっ、というか、そんな嫌な感触があって、
「!!」
カーネはなすすべもなく吹き飛ばされる。
鼻血が出なかったのと、顔の骨が折れなかったのを褒めて欲しいくらいだ。
しかし当然、痛いものは痛くて、
「チェックメイト……というのだったカ?」
呻きながら身を起こそうとしたら、後頭部に硬い銃口が押し当てられ、
「あー……また駄目だったか……」
カーネはそのまま、顔面から地面に轟沈した。
「こレで……俺ノ八十七勝零敗だナ?」
淡々とした声が頭上から降ってくる。
カーネは深々と溜め息をついて顔を上げた。
金色の髪の、背の高い、鋭い眼の青年がそこには立っている。
野生の獣を思わせる、強靭さとしなやかさを有した青年だ。
カーネがあちこち傷だらけなのに、彼はかすり傷ひとつ負っていない。中華を思わせる独特の衣装や、友人だかファミリーの一員からもらったという毛皮の肩当てにも、わずかな乱れすらない。
「マグナ兄貴は速すぎるし強すぎるよ……手加減されてるって判るのに、全然追いつけない」
いてて、と呻きながら立ち上がり、ジーンズの尻をはたいて埃を落とす。
転がった拳銃を拾い上げ、懐に戻す。
「まぁでも、だからこそ教わってるわけだしな、うん」
自己完結していると、彼ことマグナが、先刻カーネが投擲したナイフを数本、渡してくれた。
「大事ナものダロう」
「あ、ありがと」
カーネはちょっと笑ってナイフを受け取る。
マグナの言葉に片言が混じるのは、彼がこの国の生まれではないからだときいたことがあるが、ひな鳥が初めて見たものを親と思う刷り込みの如くにマグナに全幅の信頼を置いている――とにかく構って欲しくてまとわりつくので、たまに鬱陶しがられていると思う――カーネには、マグナがどこの国の何という人種だろうと関係がなかった。
ひょんなことからボスに助けられ、彼に惚れ込んでファミリーに入ったという経緯の、戦闘に関しては屁の役にも立たなかったカーネを、一年弱でここまで鍛えてくれたのがマグナだ。
カーネがファミリーに入った際、その場にいたから、というそれだけの理由で、ボスからカーネの指導を丸投げされたマグナだが、なんやかや言いつつ、ボスからの命令だから、という理由であったとしても、忙しくないときは、カーネの鍛錬や訓練に付き合ってくれるし、相談にも乗ってくれる。
彼がファミリーに入るきっかけとなった事件で祖母を亡くし、天涯孤独となった今のカーネにとって、マグナの存在はとても大きなものなのだ。
――もちろん、自分と彼の間に、温度差があることも理解はしているけれど。
「マグナ兄貴は、しばらく向こうで仕事だっけ?」
連れだってアジトへと戻りながら問うと、マグナはちいさく頷いた。
精緻に編み込まれた美しい金髪がわずかに揺れる。
「大きナ抗争があル。……しばらくハ働き詰めダロう」
「そっか。えーと……気をつけて。って、俺が言うようなことじゃないのかもしれないけど」
彼のような強い男に、自分のような下っ端が何を言っても無意味な気がしてそう付け加えると、マグナはしばし沈黙したあと、カーネの肩を軽く叩いた。
「……あア」
心配無用、のニュアンスを感じ取り、カーネは満面の笑みで頷く。
そして、彼が帰ってくるまでに、もう少し強くなっておこう、と思うのだ。
強い兄貴が大好きだから、早く追いついて、その背中を守れるようになりたい。
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自己紹介:
血まみれバトルFTと手作り全般、マイナー音楽と犬と本を愛する頑固者。どんなときも、どこにいてもイヌハク節全開、いつでも一直線に全力疾走(急には曲がれない)。
偏屈ですが人間は好きです。おだてられたり褒められたりするとテンションと作業速度がアップします。よければ声をかけてやってください。
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